解説には書いていないが、1955年にランダムハウスから出版された『大森林』という、フォークナーのそれまでに書いた狩猟物語を集めた本の翻訳である。中でも、「熊」はフォークナーの最長の短編で、彼の傑作の一つに数えられている。ただし、この「熊」には実は二つのヴァ-ジョンがあって、ここに収められているのは短い方のヴァ-ジョンである。長い方のは『行け、モーゼ』に入っていて、本当に「熊」の複雑さを理解するには、こちらを読まなければならない。
原書と対照してみると、翻訳はかなり自由に訳されていて、訳文は読みやすくはあるが、翻訳ミスも散見される。訳者は他に『八月の光』なども訳している。