この小説は、戸籍管理局に勤める中年の独身男性「ジョゼ氏」が、見知らぬ女性を探し求めていく話。彼は、さまざまな有名人の新聞、雑誌の切り抜きを集めるのを趣味としているのだが、その切り抜きと一緒にほんものの出生届も加えられれば立派なコレクションになる、と思い立って戸籍管理局に忍び込んで書類を持ち出してくる。そのなかに、まったく無名の関係ない人の書類が紛れ込んでいた。ジョゼ氏はその彼女を知りたい衝動にかられ、探し求めていく...という話。けっきょく、コレクションの趣味などというのは、人生の時間をムダに過ごすためのものだ、と思わせながらも、ジョゼ氏がその「ムダなこと」によって体験する冒険や、そのときに感じる精神的葛藤などをとおして、「死」とはどういうことかを学んでゆく。人生はまったく意味がない、と見せかけておきながら実はそうでないということを示してくれているのではないか、と考えさせられた。
作者は1922年生まれというからもう78歳くらいだ。物語の中で「一階右側の女性」が50すぎのジョゼ氏に向かって、人は70をすぎてから少し賢くなるのよ、と言っているが、70を過ぎると世界はどのように見えるようになるのだろうか・・・。わたしはまだたった30年しか生きていないのでまだまだだ。