読み手が不条理な未完の問題巨編
★★★★☆
池内訳をやっと読了。高橋義孝訳よりはこなれた訳文とは思うが、どちらが優れているかはわからない。最近の『カラマーゾフ』などは、明らかに亀山新訳がわかりやすいと思うが、とにかく『城』自体が読みにくい。特に後半は延々と続く対話的な進行がどこに向うのかままならず、正直言ってしんどい。その上、未完というのは、それこそが「不条理」?
保坂和志なら、これこそ小説というだろうが・・・・。
1883年、マルクスが死にカフカが生まれた。
マルクスは「朝には農耕民として、夜には批評家として」云々と一人の人間には本来様々な可能性があり何にでもなることができ、様々な活動を担うべきであるとし、職業人としてのみ規定される人間を開放しようとした。カフカは『城』において職業的な属性にのみ規定され、なおかつその職業からも疎外される人物を描いた。
以上は、これまでよく指摘されてきたことだが、『城』のKはとにかくよくしゃべる。少なくとも測量士であるだけでなく、おしゃべりな話者ではある。『変身』や『審判』といったイメージどおりの「疎外された人間」風の文体は、『城』では最初の4分の1くらいまでであって、それ以降は所謂カフカ的な登場人物とは全然違うことに気付く。対話的なやり取りは相互が大変饒舌だ。しかし、双方の理解ばかりはままならず、常に行き違っている。この点はカフカ的かとも思われるが、それにしても『城』はカフカ作品のなかでも特異なのではないか。
官僚機構の硬直性とか、僻村の閉鎖性とか、なるほどそうしたテーマも見えるかもしれないが、この饒舌性、対話への熱中、相互のディスコミュニケーション、話者自身が話していることと、やっていることの関連が把握できていないような不安定、不確定なあり方、むしろそちらのほうが大いに気になった。
不条理とは?
★★★☆☆
以前も挑戦した事があったのですが、そのときは全く読めなかったのですが、今回の池内さんの訳はとても読みやすくてよかったです。
城(または、組織)が支配する村に測量士として招かれたKを主人公に、非常に不思議な物語が展開されます。そして、読み手に対して丁寧にも関わらず、その判断を下す事を絶えず躊躇させ、それでいて非常に強大で圧倒的な『城(私は個人的には城に付随する『組織』と考えました)』だけが常に存在感を示し、Kを、読者を従えようとしてきます。
個人的にはいわゆる「不条理もの」と認識いたしましたが、それだけでない、読者に語りかけ、今現在でも通用する(と言うかヒトが生きている時代ならいつでも)誰でもが思う不条理さの持つ何かを問いかけてきます。組織という見えないものなのにも関わらず、圧倒的チカラを持ったモノに対抗する不条理さのリアルさが、信頼置ける何かまでもが、少しの事で(時間の経過、状況の変化、視点の転換、相手の思い込み、自分の錯覚、など)信頼していたものが、全く変わっていってしまう感覚などがまたとてもリアルです。
不条理さとは何か?と考える事は少ないけれど、この世の中は不条理に満ち溢れています、その世の中を生きていくためにも少し不条理さについて考えてみたい人に、オススメ致します。
特に「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」が好きな方には、是非とも。あの物語の原点を、私は個人的に感じました。