具体的な改善手法を期待してこの本を読めば裏切られるであろう。ここに書かれてある改善手法は日本ではいわば常識である。しかしその常識の基本となる哲学を知る意味では、決定的に重要な本だ。50年間、日本では基本となる哲学を理解せず表面の改善手法のみ追いかけていたことになる。その欠落した哲学を学ぶ書である。
本書もまた、その経済に関して「競争力の再生」を目指すものだが、その提言は凡百の「経済予想屋」よりも遥かに堅実で具体的なものである。
筆者は、かつて戦争で荒廃した日本工業に品質管理のノウハウを教え、その後の成長の基礎を築いたとさえ言われるデミング博士の弟子。このデミング博士は米国では長らく無名であったが、晩年にようやくかつての日本での業績が買われ、アメリカ経済復活のための政策に協力した。筆者はその博士の晩年に助手として活躍した。
筆者は言う、アメリカが成功したのは実は弊害のみ大きい単なる「競争社会」の毒を中和するために日本式経営の長所を取り入れたためであると。にもかかわらず、我々がその持っていた長所まですべてかなぐり捨てて、美化されたイメージの「競争社会」へ突き進もうとしていることをも筆者は戒める。
雑誌やテレビなどで、無意味でやたらと大風呂敷な言説を披露する「経済屋」たちの言葉に違和感を抱きつつ、なおやはり日本経済の不振を感じざるを得ない人たちにはこれこそ良い本だと思う。 筆者が多くの人に読んでもらうためか、極力難解な表現や用語は避けた平易な文章で書いていることも付け加えておきたい。