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十日間の不思議 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-1)

価格: ¥798
カテゴリ: 文庫
ブランド: 早川書房
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クイーンの2時間サスペンスもの ★★★☆☆
不倫の男女に脅迫状、金を払ったらまた新たな脅迫状と窮地の連続、ついには殺人とくれば、まるで2時間サスペンスのよう。こんな作品を論理の鬼の作者が書いていたとは...。

最終的にはいかにも作者らしい凝りに凝った構成とひねりの効いた論理的な解決が待っているのだが、エラリイ自身が真の解決で述べているように、誤った解決篇の犯人には十誡をすべてその意志で破るように計画することはできない。にも関わらず、いかにもそれを計画的に行ったとする推理には元々無理がある。
誤った解決抜きで最初から真の解決を導き出していれば、なかなかの傑作だと感じることができたと思う。

なお、巻末解説で犯人が予告なしに明示されているので、未読の方は注意しないといきなりネタバレになる。解説は後から読むのが無難だろう。
名探偵の「人間宣言」 ★★★★☆
エラリイの旧友ハワードは、不定期に記憶を失うことが
あり、その間の行動をいっさい憶えていないという。

無意識のうちに殺人を犯したかもしれないという不安に駆られたハワードは、
エラリイに、ライツヴィルに来て自分を監視してほしいと懇願した。


三たびライツヴィルを訪れたエラリイを持っていたのは、ハワードの
父である、大富豪のディードリッチと、若く美しい義母のサリー。

しかし、エラリイが到着する前に、すでに正体不明の男から
「二万五千ドルでハワードの秘密を買え」という脅迫電話がかかっていた……。



名探偵の思考を先読みし、それを自分の計画に
利用するというメタ犯人を描いた先駆的な作品。

モーゼの十戒といった神学に由来するモチーフが用いられ、
それまでの作品においては、名探偵という「神」であった
エラリイが、その地位を犯人に簒奪される様が描かれます。

自分の推理が、犯人によって誘導されたものかもしれないという可能性に
気づかされたエラリイは、本作以降、論理に対して真摯であろうとするが
ゆえに、自らの推理への懐疑を手ばなせなくなってしまうのです。



 ▽付記
  
  鮎川哲也氏が指摘した、本作にある「三人称の地の文における虚偽の記述」は
  たしかにアンフェアですね(かといって、うまい対案も思い浮かびませんが)。
 
クィーン老いたり ★★☆☆☆
私はクィーンのファンなので、こういうレビュー・タイトルをつけるのは辛いのだが、事実は事実だ。クィーンは悲劇4部作や国名シリーズの代表作を発表した後、長い間スランプ状態に陥っていた。あの華麗な論理展開を見せる作品を出せないでいたのだ。

それを打ち破るかのように、架空の町ライツヴィルを舞台にして「災厄の町(=Calamity Cityは当然「Calamity Jane」のもじり)」、「フォックス家」と人間観察に基づく地に着いた作品を発表し、"クィーン再生"と期待された。だが、本作などを読むと、この登場人物の少なさと事件の単純さの中で、何故解決までに10日間も掛かったのか"不思議"になるほどである。

これ以降目立った作品と言えば「帝王死す」くらいで、後は見る影もない。どの作品からか正確には分からないが、後期の作品はゴーストライターが書いたことが今では定説になっている。本作を読むとそれも止むを得ないなぁという気がするのである。
エラリー・クイーンの最高傑作はこれだ! ★★★★★
1948年発表。いわゆる『ライツヴィルもの』の第3作。すでに町の状況は読者の頭の中では折り込み済みでしょうと言わんばかりに登場人物が極めて少ない。

精緻に組み立てられたプロットにただただ感心するとともに、この作品が後の『本格』に与えた影響たるや絶大なものがある、と読了後感じ入ってしまった。法月綸太郎の『ふたたび赤い悪夢』の各章の命名や『生首に聞いてみろ』の主人公のキャラクターなどこの作品にストレートに影響を受けている。何しろ余りに面白くてページをめくるのがもったいないのである(●^o^●)。
巻末の解説はあの鮎川哲也が書いている。御大が解説を引き受けるのも無理はないなぁ、と思った。指摘しているシーン描写の欠陥はそのとおりでその一点のみを除けばすべてのプロットが完璧だ。既に一度ヌーベルバーグの巨匠クロード・シャブロルの手で映画化されているが、場所をフランスに置き換えたり時間が短過ぎたりとイマイチである。オーソン・ウェルズのディドリッチ・ヴァン・ホーンなどピッタリだっただけに残念だ。高い映像性とキャラクター各々の魅力そのままに是非とも再映像化して欲しい作品だ。

なにしろ僕のエラリー・クイーンのベスト1はこの作品である。この作品と『災厄の町』に挟まれた『フォックス家の殺人』が廃版で読めないなんて犯罪に等しい。なんとかして下さい(●^o^●)。

心理ドラマに光を当てた本格ミステリの秀作 ★★★★★
老優ドルリイ・レーンが探偵を務める四部作。
若きエラリイ・クイーンが、父親のサポートを得て論理的な推理で事件の謎を解き明かす国名シリーズ。
アメリカの架空の小都市ライツヴィルを舞台に、その町に暮らす人間や家族の悲劇を描いたライツヴィル・シリーズ。

来年、生誕100年を迎えるエラリイ・クイーン(ダネイ、リーともに1905年生まれ)。この偉大なミステリ作家の作品群の三本柱として、上記シリーズがあります。

本書『十日間の不思議』は、『災厄の町』『フォックス家の殺人』に続くライツヴィル・シリーズ第三番目の作品。初期作品群、国名シリーズで見せた論理的に展開して行く推理の美しさ、素晴らしい論理の切れ味とはまた違った魅力があります。

人間の、特に犯罪者の心理の動きに焦点を置いて考察しているような、一概に論理だけでは割り切れない部分に光を当てているような、心理ドラマ風の要素が強く働いている印象を受けます。なかでもこの『十日間の不思議』は、とても読みごたえのある作品でした。時を置いて二回読んだのですが、初読時も再読時も話に引き込まれ、ラストで真相が明らかになる場面で衝撃を受けました。