精緻に組み立てられたプロットにただただ感心するとともに、この作品が後の『本格』に与えた影響たるや絶大なものがある、と読了後感じ入ってしまった。法月綸太郎の『ふたたび赤い悪夢』の各章の命名や『生首に聞いてみろ』の主人公のキャラクターなどこの作品にストレートに影響を受けている。何しろ余りに面白くてページをめくるのがもったいないのである(●^o^●)。
巻末の解説はあの鮎川哲也が書いている。御大が解説を引き受けるのも無理はないなぁ、と思った。指摘しているシーン描写の欠陥はそのとおりでその一点のみを除けばすべてのプロットが完璧だ。既に一度ヌーベルバーグの巨匠クロード・シャブロルの手で映画化されているが、場所をフランスに置き換えたり時間が短過ぎたりとイマイチである。オーソン・ウェルズのディドリッチ・ヴァン・ホーンなどピッタリだっただけに残念だ。高い映像性とキャラクター各々の魅力そのままに是非とも再映像化して欲しい作品だ。
なにしろ僕のエラリー・クイーンのベスト1はこの作品である。この作品と『災厄の町』に挟まれた『フォックス家の殺人』が廃版で読めないなんて犯罪に等しい。なんとかして下さい(●^o^●)。
来年、生誕100年を迎えるエラリイ・クイーン(ダネイ、リーともに1905年生まれ)。この偉大なミステリ作家の作品群の三本柱として、上記シリーズがあります。
本書『十日間の不思議』は、『災厄の町』『フォックス家の殺人』に続くライツヴィル・シリーズ第三番目の作品。初期作品群、国名シリーズで見せた論理的に展開して行く推理の美しさ、素晴らしい論理の切れ味とはまた違った魅力があります。
人間の、特に犯罪者の心理の動きに焦点を置いて考察しているような、一概に論理だけでは割り切れない部分に光を当てているような、心理ドラマ風の要素が強く働いている印象を受けます。なかでもこの『十日間の不思議』は、とても読みごたえのある作品でした。時を置いて二回読んだのですが、初読時も再読時も話に引き込まれ、ラストで真相が明らかになる場面で衝撃を受けました。