不器用で暴力的な愛情
★★★★★
coldシリーズ最終巻
目覚めたら6年の月日が経っていた・・・。
ついに透の記憶が戻る、
知らない土地、知らない部屋、知らない人々・・・混乱と恐怖が襲う。
生を受けてから積み重ねられていく"記憶"が人格を形成するものなのですね・・
同じ人間とは思えないほど違う。明と暗。陽と陰。白と黒。
藤島との穏やかで幸せな6年間など微塵も覚えていないことが悲しかった・・・
藤島に対する嫌悪と憎悪が根深い透が、自分の恋人は藤島だったと知った時から
真っ黒でドロドロの底なし沼のような展開に。
透は未熟すぎる。不器用すぎる。暴力でしか伝えられない幼さにイラついた。
それでも透を否定せず痩せ細っていく藤島の姿に涙が出た。
この最終巻で黒川×谷口カプとリンクします。
歳も近く同業。互いの写真に惹かれ合う谷口と透が出会い、
二人展が切っ掛けで共同事務所を持つことに。
ここで黒川がいいスパイスになってます。
面倒ごとを一切しない透をバッサリ斬る姿に谷口への愛を感じた(笑)
ど、毒がまわるぅ。
★★★★★
木原作品はよく痛いと言われますが。その通りなんですが。そんな状況下で変遷していくキャラのクォリティが凄い。読者をただの痛がり屋さんにしてくれないのが木原作品。今回のCOLDシリーズも。シリーズ最後を飾るFEVERは木原作品の真骨頂。前二巻も読み応えがありますし、その積み上げがこの結果なんでしょうが。好意を持ちながらも幼いころ別れてしまった藤島と透。藤島は幼い頃、異常な環境下に置かれ自分というものを持ち得ない人間となる。そんな藤島が唯一独占欲をもった相手、それが透。しかし彼を過酷な現実から救えず逃避。心を残しつつも透とは疎遠に。後悔の念を抱いたまま、藤島も成長。透が交通事故を起こしたと聞き、全財産を投げ打って今度は透を救う。一方透は事故のため記憶喪失に。人格が変貌。以前の暗さはみじんもなく、非のうちどころの無い陽気で聡明な青年に。藤島から過去の裏切りを打ち明けられるも、何もかも受容し、藤島を愛する。
そして今作品で、透の記憶喪失が直ります。元に戻った透は、藤島がよく知る過去をひきずるねじくれた青年に。ってこっちが本物なんですが。以前の透にも惹かれていたはずの藤島。けれど記憶喪失時の透に愛されていた記憶が藤島の感情を裏切る。透のなかに記憶喪失時の透の面影をつい求めてしまう。透は透でそれを敏感に感じ、本物の自分が愛されていない矛盾にいらだつ。藤島にきつく当り、暴力まで振る様に。何もかも自分とは間逆で色んな愛を一心に受けていた過去の自分に、激しく嫉妬する透。そんなこんなでこの後、藤島と透の感情に決着が付くまで、紆余曲折斜め下上色々な感情が行き来します。
痛さ満載かもですが、紆余曲折真っ只中の主人公達の感情動線にこそ読み応えがあるので気になりません。そこが今回も秀逸!
人間ってこうだよね。こんな風に独善的だし、独占欲があるし、せこいし、細かいし、それで人生あちゃこちゃなっているにもかかわらず。気がついているのに修正できない。どうしてそんなチンケなプライドに拘る?!だからややこしくなるのよ、という人生の縮図が木原作品にはあるので。読んでいて素直にリアルに感じてしまう。
ともすれば味わうことの無い異常な状況下も、実は現実でも有りなのかなと。洗脳されてますね私。はい。スピンオフの「同窓会」のその後での透は、読んでいて「檻の中」を思わせ幸せにもなれます。
毒されがいのある作品でした。痛がり屋さんにもそうでない人にも、ぜひお勧めです。
本領発揮!
★★★★★
一般的なBLとして見るなら、前作「COLD LIGHT」にてハッピーエンドで終わってもいいと思うんです。
ひたひたとあったかく、幸せ気分で。
先が分からない未来の不安も込みで、相手の存在を受け入れて…。
でも、そこで終わらずに、しっかりと書き込むのが木原作品。
この作品の為に前二作があった…とあとがきにある通り、最終巻の「COLD FEVER」では、心理描写に重点を置いた濃厚な木原音瀬ワールドが展開されています。
内容はと言えば、…痛いです。
幸せな甘い気分の直後だけに、本当にきつい痛さとなります。
読むのが辛い。
でも、読んでしまう。
そして、面白い。
木原音瀬さん、面目躍如な一冊です。
未読の方は是非とも第一作から、そして何より、新装版を読まれることをお勧めします。
(^-^)
本来の透とねじまげられてしまった透
★★★★★
COLD シリーズの完結編です。
これというきっかけもなしに、突然透の記憶が戻ったところから始まります。
過去のことは思い出したけれど、逆にこの六年間のことは何一つ覚えていません。
透にとっては、何もわからないまま六年経っていて、なぜか大嫌いな男と同じ家で暮らしていて、そしてこの六年間の透は、暴力的な自分と違って、穏やかで周囲に好かれていたらしい。
透は苛つきます。
藤島はこの六年間自分は透と恋人同士だったと言えないのですが、透は偶然自分と藤島が裸で抱き合っている写真を見つけてしまい、逆上します。怒った透の暴力シーンはかなりひどいものでした。
最初は子供の頃を思い出し、藤島が記憶を失った自分をたぶらかしたのだと腹を立て、やがて記憶を失っていた六年間の自分に嫉妬に似た気持ちを抱きます。自分の存在価値を探す透は悲しかったです。
穏やかだった六年間の透は、実際の透とはまるで別人のようですが、子供時代の可愛かった透のことを思うと別人なんかじゃなく、あんな目に遭うことがなければ、こう育つはずだった本来の透なのかもしれないと思えました。
今後の二人が幸福に向かうことを祈らずにはいられません。
覚めることなく何度でも
★★★★★
目覚めれば記憶喪失になっていた透。自称「友人」の藤島だけが頼りで同居を始めるが、友人にしてはよそよそしい。けれど藤島は真摯に尽くしてくれる……。
と、始まったこのシリーズ完結編。記憶喪失モノと言うと、好きだった気持ちや関係を「忘れられて」しまう悲哀や切なさがメインだと思いますが、木原作品、それに加えてネグレクト・児童虐待・近親相○・不倫・DV……痛いのオンパレードでした。やはりと言うかさすがと言うか。
藤島への憎悪を一旦忘れてしまった透が、まっさらな気持ちで藤島と優しい関係を構築し、過去の経緯を聞いた上でちゃんと恋人に……なったかと思いきや、6年経って「憎悪」の記憶を取り戻したと同時に「愛情」の記憶を失くしちゃう。二重の悲劇。
藤島のやり方も、透の暴力も誉められたモノじゃない。けど、そこにはなりふり構わない、ただ相手を乞い求める孤独や愛情があり……痛いけどハピエンです。旧版には無い書き下ろしで、その後の二人の淡々とした幸せな生活が読めます。三冊一気読み、おすすめ!