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虹色のトロツキー (1) (中公文庫―コミック版)

価格: ¥660
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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安彦 良和著
日本の近代と格闘する姿勢を評価します ★★★★★
 「カムイ伝」や「ベルばら」など日本のマンガは歴史物でも傑作を生んできましたが、日本の近代史に取り組んだ作品は多くありません。まじめであろうとすればするほどしんどくなるからだと思いますが、真正面から果敢に挑んだ野心作がこの作品です。日本人、モンゴル人、中国人、ロシア人と、主な登場人物をみただけでも筆者の視野の広さ、見識の高さが伺えます。特に、モンゴルの人たちの視点を強く意識しているところには、歴史を見る眼を開かれた思いがしました。最後まで読んで痛感したのは「俺はアジアの近代史を知らない。特にモンゴルや朝鮮、中国の少数民族の近代史を知らない。そのため日本の近代史もよくわかっていない」ということでした。
 全体を通読するには気力が必要かもしれません。それは、真摯な姿勢で歴史に向かい合ったら当然のことだと思います。小林よしのり氏や中国共産党の公的文書のような能天気な歴史観に基づくなら、読者にとって読みやすい、ある意味で気持ちのいい物語を展開できるかもしれませんが、残念ながら歴史は苦痛に満ち、曲がりくねっているのです。マンガは読む人に強く訴える力のあるメディアだと思いますが、筆者はその力を多少犠牲にして真摯に日本の近代と格闘し、結果的にマンガの可能性を広げたと思います。
 満州国を舞台にしたマンガとしてはほかに、竹宮恵子さんの「紅にほふ」もマンガの可能性を広げた傑作だと思います。横山光輝さんの「狼の星座」や村上もとかさんの「龍」などはマンガとしての面白さにあふれていますが、歴史への目配りが物足りません。もっともっと果敢な挑戦があってしかるべきだと思います。
 さらに言えば、朝鮮半島や台湾、東南アジアなどまさに世界を舞台にした日本の近代史と格闘する作品も出てきてほしいものです。日本人、特に若い人はもっと自分の国の歴史を学ぶ必要があるから……
 
 
 
ノモンハン事件を描いた野心的な作品 ★★★★★
全巻を通じての前半はともかく、後半は面白い。
司馬遼太郎も断念した、ノモンハン事件を描いている。
特になぜこの事件が起こったのかの解釈が斬新である。
「『今事変』の根本的解決に貢献せんとするにあり」
この一文に新たな解釈を付け加えている。
多くの歴史家からは否定的な解釈内容であるようだが、
もし事実であれば大変なことかもしれない。
今現在も謎が多いとされるこの事件(戦争が正しい解釈)
に作者なりの究明を試みた野心的な作品である。
壮大な ★★★★★
中国とは,なんて壮大な国なのだろうと思う。
広い。
すべての人々を飲み込んでしまう大きさ。

歴史とは,なんて過酷なのだろうと思う。
長い。
人は,生死の中をさまよう。

僕たちは,自分の目先の人生の中で苦しみ
右往左往する。

この漫画を読んで,どこに行くのか?
どうすればいいのか?などと,深くて遠い
テーマを感じるわけです。

今こそもう一度読みたい、満州国の青春残酷物語。 ★★★★★
 満州国は日本人にとっては現実逃避の場所であり、昭和の夢と可能性そのものだった。中国側から見れば、満州国は「偽満」で、石原莞爾たちはただの強欲な侵略者に過ぎないかもしれない。けれどそこには、あらゆる民族が平等・自由に暮らせる国という理想があり、その大学にはガンジーやトロツキーの招聘というプロジェクトまでがあった。
それらの理想は結局は絵に描いた餅で、結局は満州を守るために日本は日中戦争という泥沼に巻き込まれていったのだとしても、そこに生きた人々のことを、忘れてはいけないのではないか。
この漫画には、満州の「虹色の」夢の美しさとともに、その現実の醜さ、過酷さ、絶望的な暗さが描きこまれている。青年ウムボルトはやや理想的なキャラクターに傾きすぎている気がするが、日本軍人と蒙古のハーフという設定でなければこのように自由に、日本側・抗日側の視点を行き来できなかったのだろう。
読んでいて、刺激を受ける作品だ。素直に、もっと読まれてもいい物語と思ふ。特に、今のように、中国で反日感情?が盛り上がっているときには、近代史の複雑さを、少しでも心で理解するためには…。
壮大なる満州国の物語の幕開け ★★★★☆
現在『ガンダム』漫画版を執筆中とはいえ、
安彦良和氏をアニメの絵描き屋さんととらえてしまったら
とても失礼にあたるだろう。

『アリオン』に始まる氏の漫画活動は
一貫して歴史の中にきらめく人間たちの姿を
生き生きと描こうとしているように感じる。

本作の舞台は第二次世界大戦前夜の満州。
日蒙の混血児ウムボルトの数奇な運命を描く、

歴史ロマンである。本巻はその一巻目。
出自が謎に満ちた主人公、顔見世の回である。

しかし石原莞爾を始めとして
甘粕正彦・東上英機・植芝盛平ら実在の人物が
本当にリアルに描かれているのには舌を巻く。