カストロ伝 (山崎雅弘 戦史ノート)
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20世紀の後半、米ソの二大超大国を頂点とする冷戦構造に支配された地球上では、何人もの剛腕政治家が入れ替わり立ち替わり国際政治の舞台に現れては、国益と国益を激しく衝突させ、争いの炎を放ち、それを消す行為を繰り返してきた。彼らの大半は、既にこの世におらず、残りのほとんども表舞台から姿を消したが、ただ一人だけ、今なお現役で舞台に立ち続ける人物がいる。
それが、2013年1月現在で86歳のフィデル・アレハンドロ・カストロ・ルスである。
キューバ革命を成し遂げたカストロは、超大国アメリカからは蛇蝎のごとく憎まれる一方、いわゆる第三世界の指導者からはおおむね好意的に迎えられ、彼の行動やそれがもたらした有形無形の波及効果についての評価は、いまだ定まってはいない。ある者は彼を「情に厚い英雄」と呼び、ある者は「冷酷な独裁者」と呼ぶが、実際にカストロが残した足跡をたどってみると、そのどちらもが一定の根拠に基づいていることがわかる。
「私を断罪するがよろしい。結構です。歴史は、私に無罪を宣告するでしょうから!」
1953年10月16日、キューバ陸軍のモンカダ兵営襲撃に失敗して捕らえられた主犯格の男カストロは、同事件の裁判で被告人(つまり自分)の最終弁論を二時間近くにわたって行い、圧制に対する抵抗と自由のために生涯を捧げた歴史上の人名を延々と列挙し、自らをこの系譜になぞらえた上で、冒頭の言葉を悠然と口にした。
それでは、希代の政治家カストロとは、一体どのような人物だったのか。彼は何を目指して革命運動を指導し、その結果として祖国キューバをどこに導いたのか。
本書は、20世紀の国際社会を動かした指導者の一人、フィデル・カストロの足跡と、彼を中心とするキューバ現代史の流れを、コンパクトにまとめた記事です。2007年5月、学研パブリッシングの雑誌『歴史群像』第83号(2007年6月号)の記事として、B5版11ページで発表されました。「歴史」が彼に下すであろう判決よりも一足早く、諸々の歴史的事実に改めて光を当て、毀誉褒貶の激しい彼の人物像に迫ります。