残された人々
★★★★★
「母は強し」と聞くが、母でなくても女性は逞しい。少なくとも当巻では。男性たちの留守の間に旧別荘地を病院に変え、経営、維持、管理をするのは女性たちである。
それぞれ重傷を負い、戦線を離れた主要登場人物たちは、彼女たちの住居で再会する。そのひとりは「歩兵で突撃したことがなければ、戦争はわからない」が「誰にも話せないし、話したくない」と言う。確かに、前線に投入されただけの一歩兵には殺すか殺されるしかなく、そんな修羅場など人に話したい筈はない。既出の外交官いわく、全局を知り、「効果的な嘘」で「世論の指導」をしているのは、当局の楽屋裏なのである。
もうひとりは毒ガス攻撃の被害者で、戦争の終結を願いながらも、人類がその誘惑をかわすほど「精神的進歩」を遂げるには「何百年かかるだろう?」と考える。また、彼は、故人となった血族が無血革命を信じるほどおめでたくもなかったことを確信するがゆえに、「悲しいというより腹立たしく」、強い喪失感と「むき出しの絶望感」を味わってもいる。
そうしたふたりの負傷者と読み手の慰めは、まだ幼いひとりの男の子である。その三歳児のあまりのひねくれぶりには笑うしかない。さて、誰に似たのやら。
なお、当巻「解説」にはかなりの「先取り」が含まれるので、お気をつけて。