ノーベル賞作家からの伝言Ⅳ
★★★★★
痛くもない腹が微妙に痛む振りをする元為政者に付け込んで、アメリカはイラクに攻め込んだ。ハイテク兵器で手汚さずの目論見は完全にはずれ、今なお収拾がつかない。「敵国」という妄想こそ恐怖である。
本巻は仏の参戦、つまり国民総動員令の発令で始まる。主戦派の人々に信条と行動の矛盾はない。中でも短絡的な人々によって’敵国系’商店は既に、襲撃、略奪済みである。一方、ある反戦派は、己に誠実で孤独な決断をする。彼が自らの企てに与える意義には批判もあろうし、事の成否は歴史が示したに等しいが・・・。
何にせよ、応召する人々の群れを包むのは、ほぼ一様に苦悩と落胆である。愛する家族と別れる者たちは、互いにごく平凡な、しかし彼らだけの共有する過去を思い出し、ぎこちなく抱き合う。彼らは二度と会えるだろうか。再び、犬も食わない大喧嘩ができるだろうか。
このような時にも人々の生活はある。運悪く(?)我が子のロマンスの現場を目撃する羽目になり、狼狽し、挙句こっそり逃げ出す母。身内の者にひどくののしられた後、その不快感を「脈拍120くらい」と換算してしまう医師。深刻な時局にあって普通の人間のかわいさが光る。
なお、本巻「解説」にも「先取り」はないので、ご安心を。