希望の星
★★★★★
予め活動時間(=寿命)を設定されたロボットが、自分の活動停止(=死)の間際に次のロボットを作る、という短編小説があった。命には必ず終わりがあると分かっていても、余命を限られた時、人間なら何をするだろうか。
本巻の登場人物のひとりは、恩師の目の中に深い憐憫の影を見て、自らの余命を知る。激しい動揺の末、彼は「自分の足跡を残したいという欲望」に気付く。既に手紙によって、書くことが心を楽にすることは実感していたが、彼の新しい習慣=日記は、「気休め」から未来の一青年への伝言になる。
そこには思いつくまま様々な事柄が記される。身内の思い出、「つまらない一生の中で一番楽しいものだった」ひとつの恋、星空を見る安らぎ・・・。中でも熱心に語られるのは、米大統領ウィルソンの提唱した国際連盟への期待と、未来の一青年への率直な助言である。「自分が何者であるかを知るには長い模索を要する」とか、常に「懐疑」を勧める姿勢には、読み手でも頷ける。そして安楽死というテーマの最終回が語られるのもこの日記の中である。
個人的には、未来の一青年の母が日記の主(ぬし)の提案を拒絶した時、それを彼がやわらかく受容した部分が最も好きだった。
国際連盟は作家の執筆当時ほぼ破綻している。しかし彼は未来に何らかの希望を繋げたかったに違いない。それを受け止められるか否かは読み手の器次第だろう。