ノーベル賞作家からの伝言Ⅲ
★★★★★
拙宅の8㎡の狭い庭で見知らぬ子供たちが鬼ごっこしている。昔の自分と重ねつつも、植えた花々を思うと落ち着かない。我ながら狭量で情けないことだ。愛国心とはその延長上にあるのだろうか。
ついにオーストリアがバルカンで火蓋を切った。本巻では独、仏、露の参戦に至る5日間が再現される。「愛国」という魔法の呪文は「正当防衛」という概念に変装し、当時唯一のメディアであった新聞、そして社会主義者でさえ懐柔していく。主人公のひとりの属する組織も例外ではない。
外交政策が行き詰まると、国家防衛を振りかざして台頭するのが軍部である。となれば、国の命運は『1914年夏 Ⅱ』で既出の外交官いわく「自重で急坂を駆けおりるブレーキのない列車」に等しい。
この期に及んで選択肢はほぼない。応召するか否か。大抵の者は無条件にする。論理的に考える者は「社会契約に従う」という。即ち、「普通選挙によって選ばれ、大多数の意思を代表する政治家の決定に従う」と。上の問いに己の信条から「否」と答える「良心的兵役拒否」は、現在広く認められているが、当時の仏では銃殺刑である。敢えてこの選択肢を提示した作家の意図を思う。
その他、実在の政治家が暗殺される場面を架空の人物に目撃させるなど、虚構と現実を一体化させる手腕は比類ないが、それは緻密な歴史考証の上に成り立っている。
なお、本巻「解説」には、ほぼ「先取り」はないのでご安心を。