思われる身の幸せ
★★★★★
発見されたのがその人の死後何日も経ての偶然だった、という話は今日珍しくない。安否を気に懸けてくれる人がいるなら、果報と思わねば。
本巻は死を目前にしたかつての独裁者の哀しい狼狽ぶりで幕を開ける。「死」を口にしては周囲の反応に一喜一憂、行方不明の子を案じて反省するやら怒るやら。折しも、本巻の副題で行方不明の者の手に成る小説内小説『ラ・ソレリーナ』が彼を探す者の手に入る・・・。
探す者と探される者の再会は前者には感無量だが、後者には積年の憎悪の対象に会うことにもつながるだけに素直には喜べない。憎悪の対象といっても、当人は以前から近所では他愛ない親バカで、瀕死の今は思い出の童謡を口ずさむ憐れな人に過ぎないのだが・・・。
片意地な相手の成長を喜び、すべてを包容し許す者、相変わらず涙もその訳も押し隠す者・・・。血族の示そうとして示せない愛情と葛藤が細やかにつづられる。
加えて、本巻は虚実入り混じる小説内小説と、探す者、探される者のミステリーとしても楽しめる。
なお、当巻「解説」は当時の西欧情勢の分かり易いまとめとなっている。また、当巻後半は8~11巻へと続く群像描写の始まりでもあり、一気に登場人物が増えるため、適宜人名のメモを取ることをおすすめする。記憶に留めることにより、点が線になり、その後の各人各様の人生が味わい深いものになる。