銭形平次捕物控の魅力は、平次と八五郎の軽妙な掛合いと、鮮やかに犯人を追い詰める平次の推理と言える。
一般に親しまれている短編では、手軽にその魅力を楽しめる反面、平次の鮮やかすぎる捕物にあっさり感が無くはない。

銭形平次の長編物は、最近は紹介されることは少ないようだが、試行錯誤しながら丁寧に情報を拾い集めて、平次が緻密に推理を組み立てていくさまや、ふつうの捕物とは少し離れたスリリングなストーリー展開を楽しむことができ、短編とは一味違った魅力を放っている。

本書には、銭形平次初の長編とされる正統派の捕物譚「八五郎女難」と、ロードムービーにコンゲームを掛け合わせたような、二転三転する展開から目を離せない「恋文道中記」の二編を収める。
「八五郎女難」は、大店で権勢を揮った支配人が殺された事件を平次と八五郎が追う。大店の美女たちに纏わりつかれて長いあごを更に伸ばす八五郎を尻目に、入り組んだ事実を丁寧に解きほぐしていく平次の冷静な推理が見もの。
「恋文道中記」は一転江戸を離れ、平次と八五郎が江戸から名古屋に上る道行に、お家騒動の火種ともなる秘密の手紙を取り戻すべく、見えない曲者との化かし合いを演じるサスペンス調の一作。この作品でも八五郎の女難は相変わらずで、大きな秘密を胸にこの道中に参加した、小唄のお歌師匠に手玉に取られている。

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この電子書籍は、河出書房版「銭形平次捕物全集」第９巻（昭和31年8月30日発行）を底本に、190. 恋文道中記、191. 八五郎女難をテキスト化しました。表記は基本的に底本のままとし、必要に応じてルビや注記を追加しています。

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2015/6/12　1.1版を発行しました。
校正漏れを修正。けっこう残っていました、すみません。