二十歳過ぎればただの人、されど地球は回ってる
★★★★★
デビュー作「ぼくと、ぼくらの夏」を読んでよかったので、本書も読んでみました。携帯電話もインターネットも出てこないけど、とても17年前の作品とは思えない、よい意味で古さの感じない小説です。青春ミステリのカテゴリーですが、赤川次郎より少し大人向けという感じです。
主人公は21歳、年齢的には大人に少し足を踏み入れたものの、まだ大人にはなりきれず、そんな中、父親の死を乗り越え、過去と対峙しながら「今」と向き合っていく。読後感は爽やかで蒸し暑さも吹き飛びました。
 
最後の1ページまで、風がにおい立つ。
★★★★☆
あとがきにもあったように、 
デビュー作よりも、 
おもしろいかも。 
デビュー作で、 
充分その面白さを満喫したけど、 
さらに、 
落ち着いて、 
構成がしっかりしている。 
この作家は、 
年齢を感じさせない若い感覚で、 
心地よい会話を楽しませてくれる。 
こういう会話や、 
なんというか、 
執着心なく人とかかわれると、 
すっきりするのになぁ、なんて思っちゃう。 
舞台は高崎。 
父親の葬儀のために帰郷した主人公は、 
その電車で好きだった女の妹と出会う。 
そこで聞かされたのは、 
その女性が、死んでいたということ。 
事故死として処理されたそのことに違和感を持った二人は、 
その謎とも言えない、 
不確かな死に、 
果敢に立ち向かい、 
殺人事件ではないかという予感を持つようになる。 
卒業から6年、 
かつての同級生の中に、 
犯人がいる。 
そして、真相は、 
意外なところに…。 
死んだ彼女は、 
圧倒的な美少女だった。 
彼女に、 
そんな事故死は似合わない。 
なんとも不確かな、 
思い込みだけど、 
その感覚は、 
なんだか信じられる。 
東京ではない、 
地方都市の鬱屈とした若者たちの、 
歪んだ友情のせいとはいえないが、 
そこまでの悪意が蓄積するのは、 
ちょっと想像できなかった。 
それでも、 
最後のページまで、 
さわやかな風の匂う小説でした。
 
女性は美しい
★★★★☆
 1990年に文藝春秋から出た単行本の文庫化。ほかに文春文庫版(1993年)もある。
 樋口氏の初期の作品で、ノン・シリーズのもの。
 前橋を舞台とした青春ミステリ。ほろ苦い恋の思い出、女性の真の姿、とテーマ的にはいかにも樋口氏の十八番の物語であった。気取った台詞、ハードボイルドな登場人物というところも相変わらず。
 描かれる女性たちは、いずれも魅力的。しかし、どこか危険で恐ろしい。
 ミステリとしては、やや不満が残る。
 
群馬県の風は冷たいです
★★★★★
前橋(というか、T市を巡る群馬県の諸都市)の雰囲気で満ちています。それだけで個人的に星五つです。
樋口作品を読むのは「ぼくと、ぼくらの夏」に続いて二作目でした。
設定は近いところがあり、絶妙な会話も両作に共通するものなのに、あちらは夏で、こちらは冬の雰囲気を、本当にすごく的確に表現できていると思います。特に群馬県民であるところの僕は、群馬の風の身を切るような冷たさを終始想起しながら読み進めました。
地方の都市のどこか空疎な感じを、地方の都市に住んで居ない人でも感じられるのではないかと思います(自分のように地方の田舎に住んでいる人にも)。
樋口作品を何か読もうとしてこの『風少女』を選んだのは偶然でしたが、デビュー二作目のこの作品を二番目に読んだことで、今後自分が体験していくであろう樋口作品に対する自分の視点も幾分広がっただろうと個人的には思います。
 
樋口有介の「原点」
★★★★★
樋口有介作品の最大の魅力は「語りと会話」にあると思います。
語り手は総じてクールでドライ。
屈折した物言いの中に諦念や自嘲をにじませながらも、
本当に大切なものは手放さない、という強固な意思を感じさせます。
そして、主人公と、味のある登場人物たちとの会話が実に秀逸。
ユーモアとウィットに満ちた会話は、いささか遊戯的ではあるものの、
主人公はそこで、冗談や軽口の衣にくるんだ本音も吐露します。
そのことにより、共同体から外れている主人公と、
生活や人生に縛られた人々とのズレや齟齬が浮き彫りにされ、
鮮やかな対照がなされる、という構造になっているのです。
ぼやき混じりの軽い語り口、というのはライトノベル隆盛の昨今、珍しくありませんが、
樋口氏ほど完成度の高い文体を持つ作家は、現在でも多くはないでしょう。
(私見では、米澤穂信氏が最も近いです)
また、ヒロインの人物像も、いわゆる「萌え」キャラの先駆けといっていい造形であり、
この点でも、ライトノベル要素をフライング気味に先取りしているといえます。
そんな早すぎた作家である樋口氏の第2作『風少女』は、
法月綸太郎氏が、著者の「原点」であり「ふるさと」としている通り、
入門書として最適です。
ぜひ本書から、樋口氏のさわやかで切ない世界に触れてみてください。