1・この男、河井継ノ助。
★★★★★
この男は、物事を考えすぎるのであろう。
自分が、長岡藩士に生まれたこと、武士に生まれたこと、人間に生まれたことにまで
鉄板に乗せられた鶏のような狂騒ぶりで考えている。
この世の中で、そのような根本義を考えはならんのだ。
秩序を保つため、身分も道徳も鉄のタガをはめられたように固定された封建制度において、
人はその鉄のタガの中で生きねばならない。
疑問をもたずに、自らの立場を理解し、平穏に暮らすことに世の無事がある。
己の足元から世の先々の事まで考えすぎている。
あの男が、あの立場で、考え続ける限り、
家族をも、人をも、世をも、不幸にするだろう。
志とは、人生のテーマだ。
人生という用紙に、何を描くかということである。
男子の生涯の苦渋というのは、その志をいかに守りぬくかである。
それを守り抜く工夫は、格別なものではなく、日常茶飯の自己規律にある。
ものの言い方・人との付き合い方・息の吸い方・息のはき方・酒の飲み方・
遊び方・全てがその志を護るがための工夫によって貫かれておらねばならぬ。
人の世は、自分の表現する場なのだ。
何を表現するかは人それぞれで異なるとしても、
自分の志、才能、願望、恨みつらみといった、もろもろの想いを、
この世でぶちまけて表現し、燃焼しきってしまわねば、怨念が残る。
怨念を残して死にたくはない、という思いが、
継ノ助の胸中に、つねに青い火をはなって燃えている。
河井継之助の美
★★★★★
なんて素敵な人、そしてなんてあっぱれな人生なんだろう…
というのが読み終わったときの感想でした。
長岡藩の藩士、そして家老として、激動の幕末時代を生き、散って行った
河井継之助という人の話です。
彼の生き方・考え方の、何もかもが新鮮で、強烈でした。
学問することや思想よりも、行動あってこその学問・思想という考え方。
これぞという人を見つけた時に、その人から学べることを全て学ぼうとする姿勢。
型破りな情報収集能力。
合理的な考え方を持つ一方、哀しいほど藩と藩主に尽くす忠誠。
尋常でない勇気。
世にあまり知られていない、長岡藩の奇跡の人、
ぜひ一読していただきたいです。
盛り上がれない上巻
★☆☆☆☆
冒頭は好きな入り方だったが、主人公の将来に影響しそうもないエピソードだけが細かく続いていた。大物とこれから何か一緒にやっていこうという感じもなく上巻が終わってしまった。
知行合一
★★★★★
長岡藩家老・河井継之助。中学時代にこの本に出会うまで、地元新潟人でありながらその名前すら知りませんでした。この本を読んで初めて、戊辰戦争でいかに長岡が激戦地だったかを知ることが出来ました。
陽明学を学ぶ継之助の「知行合一」の精神は切ないまでに一筋で、中学時代だらだらと勉強をしていた当時の自分と比較し、自身を恥ずかしくさえ思ったものです。
全体的に面白いですが、特に後半、家老に抜擢されて以降の継之助の行動力は凄まじいものを感じます。読んでいてどんどんと幕末の世界に引き込まれてしまいます。長岡藩のために何が出来るか、いかに戦火に巻き込まず独立を維持できるか…
限られた「藩」という範囲の中で必死にもがく継之助の姿は、私自身の生き方を振り返らせます。何度も繰り返し読んでいる司馬遼太郎氏の一作です。
耐えがたいゆるい話が続く
★★☆☆☆
フィクションであろうと思われる遊女との細かいやりとりが延々と続いて、読むのが苦痛になってきます。ヤマ場になるだろうと思っていた、山田方谷との師弟関係はその数分の一しか話がなくて、落胆しました。著者自身が、「なだらかで物語的起伏のない前半の風景の中を、筆者は読者とともに歩かざるをえなかった。」と書いてありますが、こうまで弛緩した話に読者をつき合わせる必要性が感じられません。最後の方で、やっと話の流れにテンポと緊張感が出てきますが、「中」・「下」と読み進むべきか迷います。読んでみて初めてこの「上」の必然性がわかるのでしょうか。同じように幕末の脇役に光をあてた「花神」との落差がとても大きいです。