車谷長吉という人は、基本的に同じような話しか書かないように思う。
まるで自らの過去について言い訳を繰り返しているようで、見苦しいっちゃ見苦しい。
が、毒虫ならばそれもなっとくだ。毒虫がいくら毒を吐き出したとてただの虫になれるわけもなく、むしろ自らの罪業を重くしていくばかりなのだから。彼は鬱屈のあげく、ますます強烈な毒を吐き出してゆくことだろう。
しかも困ったことにこの毒は、麻薬のような常習性があるのだ。
ふふふふ、あなたにもおすすめするよ。
しかし、その何日か後、古本バザーで「赤目四十八瀧~」を見つけ、これは何かの因果に違いない、と思い購入致しました。直感は的中。久しぶりに危うい美的感覚に彩られた正しい日本文学を味わいました。楽しみのないわたしはさっそく次の日、残業で遅くなったにも関わらず(+ウチで2人の子供が待っているにも関わらず+お金ないにも関わらず)駅構内の本屋で車谷長吉さんの著作をさがしてみますと文春文庫に「金輪際」を見つけました。待ちきれず、電車の吊革にぶら下がりながら読んでみますと予想はやはり違わず、おいしい上質の小さなお菓子をむさぼるように少しずつ読みました。
マンガ家のつげ義春氏をご存知の方は、氏の作品が提供してくれる「気持ち悪い+気持ちいい」みたいな感覚にあい通じる所を見出されるかもしれません。死に通じる道をいつも意識されている方には「暗い私小説」というステレオタイプな感想ではなく、豊かな奥行き深い世界を見せてくれる作品群です。島尾敏夫、福永武彦なんかも系統だと思います(車谷さん万一これを読んでも怒らないで下さいね)。これを読んで救われるヒトというのはいる気がします。わたしもその1人です。