クライマックスの派手さにびっくり
★★★★☆
他の人たちが指摘するとおり、ちっとも怖くない。超自然的な要素もさほど強くなく、確かにどう見てもホラーとは呼べないだろう。
しかし、だからといって小説として否定することができないのは当然で、これが実に面白いのである。テーマは「至高の芸術追求」とでも言おうか。それを一気に読ませてくれる筆力も大したものだが、その果てに待っている文字通りのクライマックスの派手さには驚かされた。いくつかの論理的な疑問点も、力技で強引に持ってきたこのスペクタクル・シーンの前にはかすんでしまう。
バッハよりムソルグスキーの「禿山の一夜」とかの方が似合いそうな結末であった。
ぼやけている
★★★☆☆
篠田女史の書く「音楽作品」の1つであると思う。が私はあまり彼女のこれらの作品が好きではない。音楽書から得た知識なのかどうかわからないが、不必要な説明・描写が多い。
技巧・音楽理論・作曲法における専門的な説明はこの際、蛇足ではないだろうか。
餅は餅屋、である。
確かに、学生時代の思い人が死の直前に残した演奏テープには「カノン」がおさめられていた。しかしタイトルにするほど作品と深く関わっているかは疑問である気がする。
「異色ホラー」と紹介されているが、ホラーではないと思う。が、薄気味悪さは感じた。
もっと、深い何かを期待して読み始めてしまったので、少し物足りなさを感じるのかもしれない。他の作品に見える篠田女子の厭世観のようなものが感じられない。
少し輪郭のぼやけた作品に思えてしまった。
心の深層にひっかかる作品
★★★★★
篠田節子の作品の中では、「マエストロ」、「ハルモニア」の系統に属する音楽ものですが、その質感はかなり異なります。女主人公の大学時代の恋人が自殺し、彼が弾いたバッハのカノンを録音したカセットテープを彼女が受け取ったところから不思議な現象が起き始めます。
女主人公と大学時代の恋人、その友人、そして彼らが高校生のときに憧れていた女性の、それぞれの過去と現代が絡み合い、微妙な音色を帯びて物語が進んでいきます。
音楽小説として読んでももちろん絶品で楽しめますが、男女の10代から40歳前後までの甘美なひずみとしての成長や、生きる過程での葛藤、心理の屈折といったものを、これほど明晰に表現し定着させた小説は、他にはほとんどないのではないかという気がします。
「ゴサインタン」、「弥勒」とはジャンルが異なりますが、それらに並ぶ傑作だと思います。いや、私にとっては最高の作品になるかもしれません。ある意味で、心の深層にひっかかる作品です。
状況描写が素晴らしい
★★★☆☆
ヴァイオリン演奏の描写、最後の正寛との山岳での場面などは素晴らしい。そうした状況を描きたかったのかもしれない。それならば十分に成功している。しかし、香西の自殺の理由や、正寛の山行きの理由が分かり易いとはいえない。宏子の変貌についても、もう少し描ききって欲しかった。楽しみながら読むことが出来るが、結果としては中途半端な作品となってしまったのではないか。
音楽の追求
★★★☆☆
小学校の音楽教師・瑞穂に渡された、自殺した学生時代の恋人が、弾いていたバッハの「カノン」のテープ。そのテープを再生するたびに起こる奇怪な事件。
ホラーとありますが、怖さはありません、むしろ音楽とは何か?を問う純文学に近いのでは。