嵐の過ぎ去る朝を待てばいい
★★★★★
一晩でいい。共に抱き合いながら眠れたら。共に夜明けを迎えることができたら。
既婚者との恋は、たったそれだけのことが許されない。こんなにささやかな願いなのに、実現させようとすれば、現在の家庭や生活と引き換えにしなくてはならなくなる。
愛する人に、自分との恋愛の代償に、現在の家庭や生活を捨てろと言えるか。自分の幸福の代償に、現在の家庭や生活を捨てることはできるのか。
母親に捨てられた子どもと、父親に捨てられた子ども。その二人が長じて出会ったとき、「母親は子どもを捨てられるか/捨てさせてもよいのか」という命題が大きく立ちはだかる。
二者択一ではないはずのことが、二者択一であるかのように選択を迫られる。自分自身も、そうとしか事態を把握できないほど、疲れ果てて視野狭窄に陥ってしまうことがある。
そんな死の海を目の前にしたときのような絶望の瞬間を乗り越えていった二人の物語は、恋愛が終わっても小説としていつまもで美しく輝くだろう。
作者のルーツのような恋愛を知る格好の材料であり、美しい恋愛小説であると同時に、被虐待からのサバイバーを描いた小説としても秀逸だと思った。
切なく強烈な・・・
★★★★★
可穂さんの本はこれが初めてでした。
女同士、ぶつかりあうように愛し合う様子は、感動しました。恋愛小説という枠にとどまらず、純文学でもいけるんじゃないかと思いました。
愛するとは相手の生き血をすすることだと、本当にそう思いました。この小説に描かれた恋愛こそ真実の恋のような気がします。
面白くてあっという間に読み終えて、可穂さんの他の作品も読みました。今では熱烈なファンです。
自己憐憫
★☆☆☆☆
主人公2人の生い立ちには同情できる点が多くあるが、それを差し引いても全体的に描写が公平ではない。筆者が地の文で主人公2人のみに味方し過ぎており、一読者としては、作者からこちらの膝にすがりつかれて「可哀想でしょ? 可哀想でしょ?」と同意を求められているような気分になった。正直言って、不愉快。
比喩的、もしくは抽象的すぎて意味不明、客観的に明らかでもないような冗長な表現によって2人の関係をまるで素晴らしいものであるかのように飾り立てている。が、冷静に眺めてみれば「似通った境遇の2人が惹かれ合って恋に落ちた」というだけの話。2人の主人公キャラクターの行動論理は特段に魅力的でもなく、なぜこうまで惹かれ合うのか、それ(似ていること)以上の理由は読み取れなかった。
主人公2人が抱える様々な辛さは認めるにせよ、自業自得と言えることも多いし、情動反応や描写が大袈裟な割には実のところ大した悲劇でもない。例えば、ラスト近く。不倫に走って配偶者を裏切り、ないがしろにし続けた那智は、しかし離婚調停ではダダをこねまくって我が子との離別を最小限にまで抑え、結果的に落ち着いた境遇は、有責者のそれとしてはかなり甘いものだったと言わざるを得ない。ゴネ得。
ロクデナシばかりに囲まれて生きてきた半生、色々と苦労することの多かった女性2人の物語。それは良い。一読者たる私にとっての悲劇は、それを小説に仕上げたのが冷徹に公平な描写を綴るということをしない作者だったという点。
ファンだからこそ思うこと
★★☆☆☆
この本の「あとがき」(文庫版のほうではなく)で、著者は「これは私小説ではない」と書いているが、のちに講談社刊の『IN・POCKET』でこの作品を「これは私小説である」としている。実際、同著者『白い薔薇の淵まで』で山本周五郎賞を受賞した際の記念エッセイに、その時パートナーであった女性の子供のためにこの『感情教育』を書いたと記してあった。この本の初めに「Hに捧ぐ」と書いてあることからしても、これは著者の私小説だろう。
中山氏はこの作品を、「わたし」という言葉を遣う一人称で書かず、なるべく説明的にならないように那智(おそらく相手の女性)と理緒(おそらく中山氏)の恋愛を三人称で書いたのだと思われる。しかし、やはり中山氏は自身のこの過去の恋愛を思い、書こうとする時、感情的にならざるを得なかったのだろう。那智が育ってきた過程、結婚し離婚に至るまでの過程がいかに悲惨なものであり、理緒と結びつくことにつながっていったのかという点が、これでもかとばかりに読者に“訴える”ように書かれてしまっている。いかにも「私たちは苦しい恋をしたのだ」と見せつけられると同時に、いわゆる“作家的立場”から書けていないと感じた。当事者としての感情・視点に偏ることなく、強固に“作家的視点”を持ち続けながら書くことができたならば、読み手を納得させ、小説としても感動の深いものになっていたと思うのだが…。
中山氏は、自身の恋愛を思う時は、どうあがいても“作家的”にはなれない人なのだろう。そんな点もまた、人間臭くていいのだが、書くからには、それが私小説でも登場人物に対して心を鬼にしてほしいと思った。
自己満足?
★★☆☆☆
正直よくわかりませんでした。なにか、ほんとに誰かの実態験を小説にするとこんな感じになります的な物語の感じがしました。なぜ、感情教育というタイトルなのかもまったくしっくりこないし、物語のリアリティのはずし方も相当中途半端でなぜこの設定になっているかの意味もまったくよくわかりませんでした。でも、最後までは読めたので星2つ。