構造主義分類学
★★★★☆
構造主義科学論を唱える著者の、比較的初期の作品。生物学の大問題である分類学を扱い、構造主義分類学を提唱している。構造主義科学論とは、人間の認識を基本にすえた科学のこと。世界は、我々の目に見えるような存在なのであり、見えるがままに解釈するのがもっとも妥当であるとする立場。
現在の分類学の主流は進化論の流れを汲む分岐分類学である。生物は単一の祖先を持ち、単純から複雑へと進化してきたという思想に基づき、樹形図を用いることで生物を分類しようとする。しかし、分岐分類学には様々な問題がある。著者はそれらを暴き、分岐分類学が現状とそぐわないものであることを立証する。そして、代わりに構造主義分類学を持ち出すのである。そのあたりの論説は見事であり、納得させられる。
とはいえ、著者自身が認めるように構造主義分類学はベターな存在でしかない。ベストではないのである。その限界をもきちんと提示している点が偉いと思う。
生物学・分類学の専門的な内容であり、純粋思考的に論が進められるので、一般読者には向かないだろう。しかし、驚くような発想の転換を楽しめる良書。
思想としての分類
★★★★☆
著者の提唱する「構造主義的分類学」とは結局何なのか、残念ながら私にはいまひとつイメージが湧かなかったが、我々の認知パタンや自然言語に合致する分類体系、つまり最も沢山の人々に受け入れられる分類体系こそが自然分類体系なのだという、「反」科学者たる著者の指摘には納得がいく。
なぜ生物分類法はたくさんあるのか?
★★★★★
生物の分類の必要に迫られて、『種』『門』という言葉を使うとき、一体どういう根拠なのだろうという思いと、なんとなくいかがわしい思いが離れなかった。本書では、生物学の分類根拠について、現行の数個の学派の主張とその妥当性について厳密な考証が行なわれている。そして、生物という変化するものに不変の言葉を当てはめるという行為そのもの困難性の自覚が無いまま、絶対分類を考えているという学会の問題点を指摘している。分類学が登場する前から人間その認識パターンによっては生物を分類している。この事実を謙虚に受け止めることから、生物分類学はスタートするのだろうと思った。また、このような人間の基本的認識パターンまで遡って、科学的論理の妥当性を考察する態度は、今後の科学の行く末を考える上でぜひとも必要なことだろうと思った。
分類する意味を考える
★★★★★
分類とは,物事を便宜的に,作業効率を上げるためだけにただ分ける,という作業だと思っていた.しかしながら本来,人間というものの思考過程と分類するということは,便宜を図るという理由以上の密接な関係があることを思い知った.本書はまさに私にとって分類学考の転換であった.また本書では科学者の立場から,哲学の領域にまで踏み込んで,分類するとはどういうことかを詳説してある.日頃どのような立場の人でも,ほとんど無意識のうちに様々な分類体系の下に生活しているはずである.そのような普段意識しないものに意識を向けることは,自分の生きている世界を理解するためにとても重要なことだと思う.本書はこのように自分の生きる世界に対するしっかりとした理解を持ちたい人にお勧めである.