16歳の少年が初めて恋をした年上の女性ジナイーダにはすでに恋人があった。その相手がほかならぬ自分の父であることを知った時の驚きと悲しみ……。人生の曙「初恋」を歌うリリシズムに貫かれたこの自伝的物語は、哀愁の詩人としてのツルゲーネフ(1818-83)の真髄をよく伝え、またジナイーダは彼の創り出したもっともユニークな女性像といわれる。
ほろ苦い初恋
★★★★☆
ツルゲーネフによる卓越した性格設定と描写力によって、
主人公の初恋の相手、ジナイーダの魅力が十分に伝わってくる。
もしも、このような女性が身の回りにいたら、この本と同じように
彼女に翻弄されてしまいそうだ。
コケティッシュで小悪魔的な彼女だが、それだけの女性ではない。
恋愛を通して、彼女自身も変って行く姿が描写されている。
ツルゲーネフの自伝的な小説と言われる本作品。苦い思い出となった
初恋だが、やはりこのような得がたい体験は彼にとって
幸福なことだったと思う。
物語の最後の展開は、恋愛のほろ苦さを伝えてくれる。
普遍的な恋愛を描いたものではないが、読者は本書に引き込まれざるを得ないだろう。
それはひとえに、ジナイーダの魅力にある。
それほどまでに彼女は人を魅了する。
「初恋」は遠きにありて想うもの。
★★★★★
ツルゲーネフの愛した珠玉の中篇。自身の体験そして自身の文学の出発点でもあった恋愛の原点と言えます。愛していた。身も心も全て捧げていた。それなのに、彼女は僕ではない誰か他の男を愛していたのだ。16歳の少年の叶わぬ恋の物語。冒頭3人の中年男がそれぞれの初恋の体験を物語る。そして今は40近くになってしまった主人公にも、是非貴方の話が聞きたいとお鉢が回って来る。ええ、喜んで。でもやっぱり止めておこうかな?話したいような話したくないような初恋物語。それは誰にでもある非常に個人的な物語。なぜなら、初恋の相手とは若かった貴方自身だからではないでしょうか?
ジナイーダという落ちぶれた公爵家の娘とその母親が自分の夏の家の離れに越して来る。コワク的誘惑的な20歳の娘。この時代の20歳は十分に性的に大人だったのでしょう。男達の取り巻きをいいように好きなようにカドワかし、迷わせ、女という名の媚薬で翻弄する。そんな娘に恋をする16歳のいたいけな少年。16歳という年齢は男にとって非常に苦しい時期です。自分以上に男で困る年齢?そういう時に熟れたての果実のような20歳の娘があの手この手で迷わせる。それを一体誰が止められるでしょうか?そして、事は次第に難しいというか、自然な方向に向かって進む。つまり、主人公の父親で色男のピョートル・ヴァシーリッチがその娘に興味を持つ。彼にとっては20歳の娘など、赤子の手を捻るようなもの。そして事は主人公の父親の思惑通りに進行する。
この小説の魅力はその描写力です。最後ジナイーダが主人公の父親と再会し、男と女の込み入ったしかし単純な恋の綾を馬から下りて鞭を手にした父親と彼女の間で部屋の小窓を挟んで繰り広げる。そしてついに感情的になった男に鞭で手のひらを思い切り血が滲む程に強く激しく打たれる。その生々しい臨場感、そして男と女の愛の、情熱の窮み。そうしたものを女の柔肌が鞭で唯打たれる、それでも女は頭を首を反らして男のもとに駆け寄らずにはいられない。それだけの行動で示した。それだけでふたりの関係の深さ、切実さ、苦しさ、甘さ、美しさ、妖しさを全て表現し尽したツルゲーネフの筆捌きの確かさ、したたかさ。
この生々しいそして際どくならない素晴らしい表現、この小さい一瞬を決して逃さず正確確実に見事に獲物を仕留める玄人の猟師のような文学的表現がこの作品の生命であり、花である。そんな風に思えるのは私だけでしょうか?
なかなかハマリますよ!
★★★★★
主人公は16歳の少年で、彼の初恋の相手が自分の父親への恋で悩む女性というストーリー設定がおもしろかったです。彼の微妙な心情の変化を意識しながら読みました。難しい文学作品という感じではないので、意外とよみやすかったです。