どんな大きな成功にも、神は必ず一滴の苦味を添えずにおかない、それがあなたを損なうことのないために。(著者、10月11日)
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当該著書は、ヒルティの幸福論に比較し、より宗教色が濃くなる。人によっては、この敬虔なキリスト教信者の思想に違和感や頑固さすら感じるかもしれない。しかし、「人は如何に生き、如何に深化するか」を述べるこの人生論は、味わい深いものがある。人生論は365日に区切られているため、日毎に読み進むこともできる。
若い人にも、私のように還暦に近い熟年にも、この人生論の受け止め方に相違があるにせよ、読み応えのある内容と思う。全体が、起承転結の論理構成になっているわけではない。日毎の部分が個々に完結したものであり、簡潔明瞭な思想を反映している。
ヒルティの人生論は、概して、幸福に感じている時よりも、苦悩している時に読むのが向いているように思える。気の重さが軽くなり、また慰められ、徐々に生きる勇気を回復させてくれる。
以下、いくつか、心に残る格言を引用してみよう。
・一般に現代の人たちに欠けているのは、とりわけ、喜びの心である。(緒言)
・「平和」というものは、はっきり実在するものである。多くの人がそれを身にまとい、他人を快適にする雰囲気のように、いたるところに運んでゆく一つの現実的な性質、もしくは力である。(緒言)
・たえず偉大な思想に生き、ささいなことを顧みないように努めなさい。(1月1日)
・「沈黙で失敗する者はない。」(1月10日)
・人生の幸福は、困難に出会うことが少ないとか、全くないとかいうことにあるのではなくて、むしろあらゆる困難と戦って輝かしい勝利をおさめることにある。(2月9日)
・力の許すかぎり、中絶せずに有益な仕事をすることは、たえず神の近くにあることと並んで、およそ人生が与えうる一切のうちで、最も良い、最も心を満たしてくれるものである。(3月7日)
・偉大な思想は、ただ大きな苦しみによって深く耕された心の土壌のなかからのみ成長する。そのような苦痛を知らない心には、ある浅薄さと凡庸さが残る。(4月1日)
・死後にもその人柄の印象を長く残すような人は非常に少ない。たいていの人は、重要な地位にあった者でも、数年ならずして忘れられてしまう。(4月7日)
・「偉大なことをなしとげるのは、それ以外になすことのできない人のみである。」これはなんという真実であろう。(4月14日)
・苦しみは人を強めるが、喜びは大体において人を弱くするにすぎない。勇敢に堪えしのぶ苦難と苦難との間の休みの時が、害のない喜びである。(6月21日)
・「暇な時間」や「休暇」も、何か無益なことや、それどころか時には有害なことを行うためにあるのではなく、むしろ心身のためによい事をなすためにあるのだ。(8月17日)
・「この世とその営み」についての不平や愚痴は、およそこの世で最も無益なものである。(12月29日)
世界遺産
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9月12日
世に幸福はあるが、われらはそれを知らぬ。
知っていても重んじない。 (ゲーテ 『タッソー』)
2月4日
この世には、愛はほんのわずかで、エゴイズムばかりが多すぎる、だからわれわれはこのあわれむべき人間をみすてて、彼らを軽蔑したいのだ、とペシミストは言う。この言葉の前半はたしかに正しいが、結論はそうでない。少なくともわれわれは、だからこそこの世の中にできるだけ愛をふやし、エゴイズムを減らしたいのである。
1月31日
愛というのは、人をあざむきがちな、あるいは少なくともしばしば実行しがたい言葉である。
1月1日から12月31日まで、このような言葉が、ヒルティから我々に向かって投げかけられます。
無形世界遺産があるのなら、ぜひとも登録していただきたいと思います。
この遺産の相続権は、全人類に与えられています。09005
考え方として
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当たり前のことであるが、世の中にはいろいろな考え方がある。哲学、思想関係の書物はとかく敬遠されがちだが、ものの見方、切り方等を知る手段としてひも解くと参考になることがある。本書もそうした、考え方を紹介した書物としてひも解くと非常に学ぶところがある。あるいみ自己啓発の類かもしれないが、それを超えるものがあると考える。
骨太の人生訓
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ヒルティの著作には、いつも元気づけられ、襟を正される。『幸福論』と同様、かなり厳格な
プロテスタンティズムの精神に貫かれた文章であるにもかかわらず、不思議なことに、読む
たびに気持ちが軽くなり、心を清明にしてくれる作用がある。
それは、著者の思想が、単なる「思想」、つまり頭で考えたいわゆる理想やお説教ではなく、
法曹という公職に就きながら様々な内面的あるいは外的な葛藤の中から形作られた「肉声」
だからだろう。それが私のようなキリスト教徒でない者の心をも、打つのだ。
図書館などで閲覧できる岩波から出ているヒルティ著作集の中にも、佳品は多い。この本
の正・続あたりから入って、彼の著作をくり返し味読すれば、神秘主義とは一線を画した「キ
リスト教の奥義」とも言えるものの一端に触れることができるかもしれない。ケンピスの『キ
リストにならいて』(イミタチオ・クリスチィ)などより、著者の生きた時代が現代に近い分、そ
こで描かれた倫理は、実践的で現代人の役にたつ。
眠れぬ夜に読んでます。
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眠れぬ夜のための本です。普段は幸福論を読みましょう。