「絶対悪」という言葉の悲しい力強さに思いを寄せざるをえません。ニーチェ哲学以降、この世に絶対というものがどうやらないらしいということに人類は薄々気づき始めましたが、それでも一方でやはり人智が及ばないような、そして決して揺らぐことのない絶対値をこの世のどこかに探している私たちがいます。その私たちの前にこの壮大な物語が差し出して見せようとしているのは、<絶対的に邪悪な存在>だというのです。絶望的な物語の到来を示唆する、果てしない闇を予告する、ささくれ立った言葉。心にざらつきを感じないではいられません。
思えばこの物語が編まれた10年前、大阪教育大付属小学校の事件も、世田谷や福岡の一家惨殺事件もまだ近未来の出来事でした。しかしこの物語で描かれる事件は、まさにそのような仮借なき殺人です。現実が物語を飛び越えたかのような時代に自分たちが今生きていることを改めて感じ、眩暈すら覚えます。
そんな風に現実が既に追い越してしまったようなこの物語ですが、この第2巻ではその現実を決然と方向づけようとするかのような姿勢が見られます。
というのも、この第2巻の末尾には傭兵隊長とミャンマーの少女との物語が一見唐突に登場するのですが、この二人の物語が私たちに無骨なまでに直接的な形で示してみせるのは、人間への信頼が死に絶えてはいないことの証しです。このシークエンスでの物語展開は愚直ともいえる形で描かれていますが、愚かに見えるほどに真っ直ぐ生きることこそが大切であることを訴えかけているように思えてなりません。そしてこの第2巻の幕切れに涙腺が緩まないではいられませんでした。
他にも、魅力的なキャラが多数出てきておもしろい。YAWARAを
彷彿させるような妹、ヨハンの子供時代を語る目の見えない老
人、殺されてしまった新聞記者とキャラが魅力的なので、全く
飽きずに一気に読める。ストーリーがおもしろいというのとは
ちょっと違う気がするけど。