これは、神の言葉に過激に沿って生きた男の子の絵物語。主人公ヘンリー・クランプは、3才になったばかりというのに、己の邪心に気づく。それにもかかわらず神が自分を愛してくれると知って、聖句や聖歌をよく覚え日々に唱えた。波間から舞い上がるカモメを見て彼は妹に言う。「僕が死んだら、あの鳥のように天に昇るんだよ」。 朝に夕に何か手伝うことはないかとどういうわけかトンカチ片手に両親にたずね、お菓子を我慢しては貧しい者に小遣いをあげ、聖書を読まない年上の少年たちをいさめ、書物に神の名前が軽々しく扱われていると言って念入りに塗り潰す。心ならずも悪魔のささやきに乗ってしまった時は、激しく後悔して改悛の祈りを捧げた。 そしてある寒い冬の午後、善行のあとの帰り道に、大粒の雹(ひょう)にあたって風邪をひき、あっけなく翌日には死んでしまった。ヘンリーわずか4歳と5か月。最後のページは鳥の彫刻がついた白い墓の絵。
透明感のある絵と文章であまりにさっさと進むので、立ち止まることもなく一気に読まされてしまう。だが、純粋というものの嫌味と凄みがあとにぽんと残されて、あどけない天使のようなヘンリーの姿が、紙一重で小悪魔にも感じられてくる。
実は1966年、ゴーリー自ら興した出版社からほかの本と2冊セットで500部限定出版された本書初版の著者名は、エドワード・ゴーリー(Edward Gorey)ではなく、アナグラムの別名ミセス・レジーラ・ダウディ(Mrs Regera Dowdy)だった。「ダウディ」には、流行おくれの野暮とか、だらしないの意味がある。やっぱりゴーリーらしい反語的物語。単純なストーリーとみせかけて、深い。(中村えつこ)