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赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

価格: ¥680
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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黒澤映画にもなったけれども、映画より面白い! ★★★★★
「中年になると山本周五郎に回帰する」という説がある。多分、本作(のような古典)は、中年でなくても楽しいのではないかと思われた。説明不要な、小石川養生所の医師を取り巻くあれこれ。綿密な取材に基づく堅固な筋運びが嬉しい。
よかった ★★★★★
おもしろかった。
各エピソードのその後は語られていないことが多いけど、きっとうまくいったんだろうなと想像できる。
ラストも良かった。
山本周五郎さんの作品で、時代小説ってこんなに面白いものだったんだと気づかせてもらいました。
現代に通じる問題の数々 ★★★★★
黒澤明監督の映画「赤ひげ」が余りにも有名で、そのイメージが深く浸みついてしまっています。
この本をこうして読んでみると、映画のように三船敏郎の「赤ひげ」がメインで活躍するのではなく、保本登の医者としての人間としての成長物語であり、彼こそが主人公なんだなと言う印象を強く受けました。

物語は、8つの短編と言っていいようなエピソードが連なっており、そのエピソードが進むに従って、保本の「赤ひげ」に対する態度の動きがあり、それが医者としての人間としての成長を表しています。

そのエピソードに登場する患者は、意外の現代的な病気ばかりであるのが特徴です。それは、作者が貧困から生まれる病を中心に描き、「医は仁術なり」と言う面を強調したかったこともあったでしょう。ただ、それ以上に医者と言うものが社会性の高い職業であることを通して、政治の貧困を訴えているように思えます。

そういったことがあるからこそ、山本周五郎作品が現代においても生き生きとした輝きをもって存在するのでしょう。
読んでいると、書かれている時代を超越して、現代の社会問題が頭に浮かんできます。
そして、同時に、今「赤ひげ」がいたらなあと思います。
50年前の作とは思えない。現代を読むごとし ★★★★★
ここに登場する病人の中に、肉体的な病でなく、
トラウマや神経症が原因と思われるような
心因性の症状をかかえた人物が、幾人か登場します。

どれも最近になって広く身近に、問題視されるようになったものばかり。
これが50年前の小説だろうか、と驚きました。慧眼です。

本屋や学校、図書館で、推薦図書としてよく見かける書名ですが、
なんとなく、江戸時代の貧乏な診療所の風変わりな医者の人情話、
くらいに軽く考えて読まずに流してきました。間違いでした。
同様の人も多いかと思いますが、ぜひご一読を。

決して、単純な娯楽小説の、お気楽な理想主義ではありません。
著者の複雑な人間観に基づいています。
人間が好きなのに、人間を信用しきれない。
だからこそ心がゆれる。ゆれた分だけ物語の芽が出る。

ひとが好きだけど、信じられない。矛盾する両極を渡る振り子の振幅。
その間から、生まれ落ちた物語の代表作が本著です。
読みやすいが、読みが応えあり、そして考えさせてくれる。 ★★★★★
 良き医師の典型として多くの日本人がイメージする人物、それが赤ひげである。しかし、実際に本書を読んだ人は多くはないのではないだろうか? 赤ひげは著者が練り上げた架空の人物であるのだが、その行動原理や行動規範はまさしく「医師たるべき人」として申し分ない。いやむしろ、架空の人物だからこそ、医師にふさわしい行動をとらせることが出来たのかも知れない。その意味で、「単なるフィクション」として本作を見ることも充分に可能である。しかし、人間描写のプロであり、また「人々が望むもの」を見極めるプロである職業作家が描くこの人物は、人々が求める「医師たるべき人」のモデル例である‥との解釈も可能である。
 
ある種、高圧的で強権的な赤ひげであるが、その医師としての行動には私心がない。ただひたすら、合理的な治療家であろうとのみ思考が集約している。しかし本書を読む人に、是非とも想象してもらいたい。赤ひげのような人間性の形成が、果たして現実問題として可能なのかどうかを。読者と同じ人間として、赤ひげのような人間が存在しえるのか‥ということを、考えて戴きたいのである。そしてそれが可能だとして、ではどういう社会制度が赤ひげのような医師の活躍を促進するのか‥ということも同時に想象して戴きたい。
 
架空の人物である赤ひげと対比して実際の医師を批判することは溜飲の下がることかもしれず、それはそれでやっていただいて全く構わないのだが、本書を読んだことを良ききっかけとして、もう一歩、建設的な想象をしていただければ、と思う。恐らく、著者、山本周五郎氏の求めていたのは、そういう事だったのではないだろうか?本作の設定が、時代こそ違え、現在の医療情勢と非常に似通っていることを考えると、私にはそのように思えるのである。