掌で守ってやりたい小雀のような連作
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少し心が滅入っている時に読むと、涙が止まらなくなる。その涙はまるで漢方薬のように穏やかに効いて
「さて、生きてみるか」といった気になる。掌で守ってやりたい小雀のような連作である。
黒沢明が映像化したけれど、映像では具体的に目に見え過ぎたものが小説ではぼーっとかげろうのようになって、
心を落ち着かせてくれる。
「どですかでんの六ちゃんは、自分があたまが弱いくせに、仏壇の前で毎晩『母ちゃんのあたまが良くなりますように』と祈っている」
ともだち。
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本書を初めて読んだのは、私が10代始めのころであった。
今回、約30年ぶりに読み返してみたのだが、当時理解していた本書の内容と40代の私が読み直した内容とに、ずいぶん大きな開きがあることに気がついた。
山本周五郎は、本物である。
観念のお遊びだけで執筆された彼の作品を、私は知らない。
山周翁自身が直接見聞きし、感じ、考えたことしか書いていないように思う。
飛躍して聞こえるかもしれないが、それゆえに山周翁の作品には普遍性があるのだと思う。某有名日本人売れっ子作家の駄作などよりも、この作品を翻訳し、海外の人々にも読んでもらいたい。日本人だけの財産にしておくのは、むしろ、冒涜ですらあろう。
「季節のない街」を読んだうえで、なんの感動も覚えることができないような人とは、友達になりたくないものである。
今日を生きたり!!!
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平成21年第51版。
いろいろとゴタクを述べさせてもらうなら、本作はムイシュキンが登場する『じゃりんこチエ』である。
黒澤明が本作を原作に『どですかでん』を映画化したが、世界のクロサワの原作ではおそらく周五郎が最も多いのではないか。
生きることは誰しも辛いが、それでも、それでも、夢なんて見なくても今日を何とか生き延びることだけが人間の偉さなんだということがわかる。万人が読むべき1冊!!!
凸凹(デコボコ)した愛しい人々。
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ボンヤリとテレビを見ていたら、漫画家の西原理恵子さんが、
「漫画を描いてみようというきっかけになった本」と紹介していたので読んでみました。
底の抜けたバケツのような、貧しい街の隅々で繰り広げられる、凸凹(デコボコ)した人々の一日一日が、一話一話、目線を低く抑えた丁寧な文体で、愛しくあぶり出されていて…
忘れかけていた思いが、深〜く沁み入りました。
『苦しみつつ、なおはたらけ、安住を求めるな、この世は巡礼である。』
→開高健のあとがきも、とても気に入りました。
現代もの
★★★★☆
季節のない街に生まれ、風のない丘に育ち、と泉谷しげるの名曲「春夏秋冬」を連想してしまうタイトル。でも中に収められている物語たちは心揺さぶる物語が多い。貧しい人たちが、心貧しくしてしまったり、貧しさに負けず、明るく生きていたり、どうしようもなく悲しかったり、悲惨な話もあるが、みんな現実を生きている。自分の生きている世界だけが現実でなく、人それぞれに現実がある。その現実に負けずに踏ん張っていたり、負けちゃったりするから生きていくことにつらくなったりする。でも逆にこんなことがあるから生きていけるのかもしれない。人間には差さない。みんな懸命に生きている。こんなことを感じた私は、本書によって生きる力をもらったようだ。