自由意志の否定
★★★★☆
第四章までの内容、つまり、
「人間のあらゆる行為は、まず己を満足にするために行われる」
という命題について、現代人は、あらゆる行為(特に、道徳的行為)について認めているかは分かれるだろうが、作品が発表された時代よりも受けるショックは少ないだろうと思う。
しかし、その後の章から導かれる命題についてはどうだろう。
「能力は別として、行為を決める心(衝動)の点においては、人間と動物は等しい」
「人が何を為すかは外的作用にまったく依存する」
→「人間に自由意志は存在しない」
(→「人間には善悪を判断する力はない」)
これらについて、否定的な印象、拒否したいと思う人は、第四章までの内容を拒否したい人よりも、ぐっと増えると思う。
なぜなら、世間的(通俗的)な価値とかなり異なるから。
何にせよ、物語の結論について。
「自由意志の否定」と「キリスト教の神を賛美する」ことに矛盾は生じない、として終わったが、私はこの作品を読み終えて、「自由意志の有無についての論議は人生に必要ない」という思いがますます強くなった。
自由意志の否定は非常に論理的であり、一度この思想を知れば生涯忘れることはないだろうが、こういった論証は、今まで人類が悩んできた
「人はなぜ生きたいと思いながらも死ぬのか」
「生死の繰り返しは何を目的としているのか」
といった事柄には決して答えられない。
そして、自由意志を持っていようがいまいが、それを知ったところで何を得られるというのだろう?
人生に疲れたらこの一冊!!
★★★★☆
タイトルの通り、人間とは何かという命題について老人と青年との対話という形式で論じられる本。
故に、この命題について少しでも考えを巡らせた方には是非一読をお勧めしたいです。
老人の人間論はどうにも暗くて悲観的な臭いが漂うけど、説得力は凄まじく、論に綻びが無いように感じます。
ただ、希望に溢れる若者にはあまり読ませたくないですね。
どちらかというと「所詮、人生なんてこんなもんかなぁ」とか思ってる方が共感できるような一冊かと思います。
自問自答のお供に
★★★☆☆
『トム・ソーヤの冒険』の著者マーク・トウェインの晩年の作品。人間を
機械論的に理解する姿勢や自由意志を否定する態度が、周囲(特に母親)に
悲観的すぎるとショックを与えたため、トウェインの名前を伏せた上、自費
出版で少数部だけ発行されたといういわく付き。物語ではなく、老人と青年の
対話形式の評論である。
老人は人間の自由意志を否定し、すべて外在的な要因に左右される人間像を
描く。遺伝や生まれや育ち、さらにはその人を取り巻く環境が人間を作り、
判断や選択、動機付けはそれらの要因が積み重なって半ば必然的に決定され
ている。そのため、人が完全に自由に決められることなどなく、人間の営みを
入力と出力のサイクルだと考えれば機械にすぎないのだと老人はいう。
そして、機械論的な人間のエンジンともいうべきものが欲求である。すべての
人間行動は欲求によってなされている。それを強調するために、慈悲や愛と
いった他利的な行動はそもそも存在せず、すべてが利己的なものだと指摘
する。人への施しはそうせずには自分の気分が悪いからで、あるいは世間の
目を気にするからであり、道徳や規範に従う尊い人間像は虚構にすぎないと
言い切る。
非常にドライな人間観は、感情的に反論はできるが、わりといろんな事柄が
説明可能なので、一定の説明力がある。私としては老人の考えに部分的に
賛同しながらも、完全に染められない。論理的にうまく説明がつくことと、
実際そうであることは別の話である。老人のアイデアの限界はここにある
と思う。老人と同じように実証不可能な論が許されるなら、人間の自由意志は
少なからずあるはずだ。なぜなら、何らかの難しい決断をしたとして、
時間を戻れるとするなら毎回同じ決断をするとは思えないからである。
そこにはいろんな可能世界が開かれていると私は思う。
本書に提示された老人のアイデアに傾倒するにしろ、反発するにしろ、自分が
老人あるいは青年になったつもりで対話のなかに入り込んで読むことができ面白い。
真実を書いた本だと思います
★★★★★
非常に好きな本です。
人間の心理とか倫理とか宗教だとかが、全て一つのシンプルな結論に収束させ
られるすばらしい法則が書かれてます。
ただ、最初の10ページも読まないうちにその法則は提示され、後はそれを固
める為だけの例の繰り返しです。
中にはほとんど意味の変わらない例も連続しています。
なので、実際のところ最後まで読む必要はないかもしれません。
ただ、その最初の10ページ足らずだけでも読む価値は十分あると思います。
そんな訳で、この本に書かれているのは純粋に真実だと私は信じて疑いません
が、この本はその法則を一般生活に活かす方法論は一つも提示してくれません。
そこで、個人的にはデール・カーネギーという人が書いた「人を動かす」という
超有名なビジネス書も併せてお勧めします。
はたしてこのカーネギーという人が本書を読んだり参考にしたかどうかは知りま
せんが、その内容はまさに本書をポジティブに解釈して一般生活への活用方法へ
と転換してくれています。
なのでそのカーネギーさんの本を読めばこの本を読んだ後に残るモヤモヤを効率
よく解消できるのではないかと思います。
逆にこの本の内容を人間の価値だとか、生きる意味だとか、そういう哲学的な
アプローチで解釈しようとすると底なし沼にはまりそうな気がします。
死ぬまでに1回は読んだ方がいい。
★★★★★
人間則ちこれ機械。
外力を受け(インプット)、処理し、アウトプット(行動)するだけの存在。