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シリウスの道〈上〉 (文春文庫)

価格: ¥724
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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小説としては面白い 広告業界の舞台裏ではない・・・ ★★★★☆
主人公を中心とした現在と幼少時を結びつける展開はとても面白いです。
なにか大事件が起きる!という感じではないのにストーリーに一気に引き込まれました。
広告代理店で働く主人公とその主人公の少年時代を中心に話は進みます。
某雑誌で「広告業界の業界研究に最適」とあったので読みましたが、決してそういうものではなく主人公のまわりでおきるエピソードを中心に展開します。主人公がしきりに「広告業界なんてのはそんなに華やかなものではない」と言いますが、僕には十分華やかに見えました。

上下あわせても2〜3日で読みきれると思います。
明日から使えるポリシー ★★★★★
主人公辰村のいつも瀬戸際だがけじめのある生き方は臆病な自分にとって勇気を与えてくれた。

多種多様な会社にいきるビジネスマンにとって実践できる生き方ではないが、レイモンドチャンドラーの小説がかっこいいように、ビジネスマンとしてかっこい生き方が「ビジネスハードボイルド」といわれるゆえんであるに違いない。

「まっとうな仕事」を行うポリシーはだれもが見習わなくてはいけない事だと思う。「何故働かなくてはいけないのか?」とかいう下らん質問に答える本ではなく、「どうやって働かなくてはいけないのか?」をとらえてゆくのが本当に面白かった。男として社会人になれたことにうれしさを感じることもあった。

背水の陣で臨める覚悟と勇気。臆病を兼ね備える自分にとってこの2つは今後心がけるべき事だ。
藤原伊織の集大成的小説 ★★★★★
ある意味で、「ビジネス小説」である。
主人公の辰村は、藤原作品の主人公に共通する「美学」を持っている。
それは、過去に生きてしまって、過去にこだわり、それでも今を
シニカルに生きている、ややキザな男だ。
これが鼻につく人は、そもそも藤原伊織の小説は読めない。
ここに、気の強い女性、インテリヤクザなどがからむ。
これまでこのパターンを、藤原伊織は頑なに崩そうとしなかった。
書評などでさんざん叩かれても、どこ吹く風で自分の小説スタイルを変えなかった。

もしかしたらそれが藤原伊織本人の美学だったのかもしれない。
末期癌を宣告されても平然と死ぬのを待ったのも彼の美学だったのか。
もちろん葛藤はあっただろうが、それを表に出さない痩せ我慢だ。

この「シリウスの道」は、主人公辰村はむしろ脇役で、
戸塚英明という若者の「成長物語」だと感じた。
最初はお坊ちゃんだった若者が、ひとりの骨のあるビジネスマンに育っていく、
その過程がむしろメインストーリーだと言ってもいい。
異論はあるかもしれないが、そういう読み方をしてもいいと思う。

最後に――
もう藤原伊織の新しい作品が読めないことは残念でならない。
ワンパターンだ、団塊の郷愁だと揶揄されながら、
我が道を行く作品を書き続けて欲しかった。
そうだ、仕事をやるときゃ、その姿勢でいつも胸を張ってろ。 ★★★★☆
 大手広告代理店の営業局副部長辰村は、今の仕事を続けることに疑問を感じはじめていた。
 そこへ大手の弱電メーカー大東電気から名指しで競合の申し込みがあり、本来担当していない辰村の営業局が指定されてきた。
 大東電気には辰村が個人的に会いたくない人物がいて、それは、幼い頃の思い出がからんでいる。
 広告代理店の競合の様子にあわせて、主人公の幼い頃の事件が織り込まれ、お話が展開していきます。
 主人公の仕事のさばき方や、部下のやりとり、手腕を発揮する女性上司の様子など、現実味を帯びていて、とても面白く読めます。 
藤原伊織の総決算的な作品 ★★★★☆
  「ひまわりの祝祭」の絵画、「てのひらの闇」の広告、「蚊トンボ白鬚の冒険」の株取引といった素材を再投入、さらには、酒以外にはホットドッグしか出さないバーを舞台装置として「テロリストのパラソル」の世界観、登場人物に接続する総決算的な作品となっている。「テロリストのパラソル」のアル中バーテンダー島村と著者自身を足して2で割ったような主人公の造形といい、広告業界の内情の踏み込んだ筆致といい、なりふり構わぬ全力投球ぶりは、本書の中の言葉を借りれば“未来永劫”を考えない腹の据わりを感じさせる。退職、癌宣告といった著者の私生活と決して無縁ではないだろう。本著には著者略歴が記載されていないが、本作自体が著者プロファイル、といった趣がある。主人公の38歳という年齢が、藤原伊織本人で言えば「ダックスフントのワープ」でデビューした時期に当たっていることも興味深い。
 藤原作品の主人公は、ハードボイルド作品の常としてダンディズムを身につけている。その“美学の中味”には正直辟易する部分もあるのだけれど、“やせがまんの矜持”だけではなく“弱さ”も自覚しているところに共鳴する。主人公は“赤の他人に自分の弱点を無条件に晒すことのできる”人間には結局勝てないと実感している。本書の評価は、弱さを晒さずに現実の虚飾を生きてきた団塊世代(主人公の実年齢と乖離はあるけど)が、「あの時代にもどれるとしたら...」「どんなに貧しくても、あの時代にみんながもどれたらいい」と本音を漏らすことの是非によっても分かれるだろう。
 メール、Webといった新しいメディアと電話の使い分け、プレゼン案のディテールのリアリティなどはさすが。吉田修一の「パークライフ」の舞台だった日比谷公園がこの小説でも印象的な場面で使われているが、大手町、銀座からほどない距離のあの場所は、現実から過去への回路なのかもしれない。